屋根塗装の見積もりを受ける際、その中に「タスペーサー」という項目があることがあります。
この「タスペーサー」は何を指すのか、そのメリットとデメリットについて説明します。
スレート屋根は、セメントを主成分とする屋根材で、日本の住宅の約8割に使用されていると言われています。代表的な商品名には「カラーベスト」や「コロニアル」などがあります。スレート屋根を見ると、板同士の重なり目に微細な隙間があります。この隙間は、通常の雨なら問題ありませんが、大雨や台風の際に激しい雨が吹き付けると、雨水がこの隙間に入り込んでしまいます。その結果、屋根内部に雨水がたまり、雨漏りや内部の結露を引き起こす恐れがあります。このため、スレート屋根の塗装時には、「縁切り」と呼ばれる作業が欠かせません。縁切り作業は、カッターやヘラなどの工具を使用して、板同士の重なり目に微細な隙間を作る作業です。この隙間を通じて雨水が排出できるようになり、屋根内部の水の滞留を防ぎます。
また、縁切りは手間のかかる作業であり、1軒の住宅の縁切りには2人の職人が半日以上かかることもあります。さらに、屋根に上がっての作業となるため、リスクも伴います。このような理由から、縁切り作業が省略されることもあります。
こうした従来の縁切り作業に代わる方法として、タスペーサーという部材が開発されました。タスペーサーは、縁切り作業を簡単かつ確実に行うために
設計された部品です。タスペーサーを使用することで、以下のメリットが得られます。
また、タスペーサーを取り付ける作業はスムーズに進められ、通常の戸建て住宅の場合、2〜3時間で完了します。これに対して、従来の縁切り作業は時間と労力がかかり、リスクが伴うことから、職人にとっても施主にとっても負担が大きい作業と言えます。
さらに、タスペーサーは下塗りの段階で屋根の板同士の隙間に挿入されるため、塗装が傷つく心配もありません。この部材は塗料とも相性が良く、目立たないため、外観にも影響を与えません。さらに、タスペーサーは非常にしっかりと固定されており、建材試験センターの風速実験で風速50mの条件下
でも外れることはないことが確認されたそうです。そのため、信頼性の高い製品と言えます。
一方で、タスペーサーを必ずしも使用する必要はありません。屋根と屋根の間に既に3mm以上の隙間がある場合は縁切り作業は不要となり、
タスペーサーも使用しません。屋根の状態によっては、一部の方角に隙間がない場合や、逆に隙間が広い場合があります。また、スレート屋根自体が劣化しており、下にある野地板も劣化している場合、タスペーサーを挿入することで屋根材を損傷するリスクがあるため、使用しないことがあります。
したがって、タスペーサーの使用の是非は、実際に屋根の状態を見て判断する必要があります。屋根塗装の見積もりにおいて、タスペーサーの項目が記載されているかどうかにかかわらず、屋根の状態を確認し、プロの塗装業者と相談することが重要です。